最期の告知

今週は4日間、実習先の配慮もあって1人の患者さんと向き合うことができました。

84歳のおばあさんGさん。感染症の疑いから先週入院してきたのですが、これまでの検査で胆のう・すい臓がんの可能性。もともと心臓に持病があり、血圧は上が80前後、脈拍にいたっては80-140の間を行き来していました。あまりの変動の激しさにに血圧計が感知できないらしく、何度も何度もやり直し。Gさん、なんと体重が30kgを下回っています(若い頃から細身だったらしいですが...)。なので頸動脈から脈拍が見れるのですが、医者でさえ【ジャズのようで分からない】状態。

ここ2日間は薬を追加したり、リンゲル液を点滴してきましたが、状態は芳しくなく。口にできたヘルペスとお腹の腫瘍のせいか、小さな薬さえも飲みこむのにひと苦労。飲み込んでも吐いてしまうことも。点滴も結局は体の浮腫みを増幅させるだけ。昨日なんて親族が来るとかでシャワーを浴びる予定にしていたものの、歩いてちょっとすると意識を失ってしまい、緊急アラーム沙汰になってしまいました。週末までもたないかもしれないと、昨日の時点で家族には連絡。

今朝までは胃瘻だ、中心静脈カテーテルだ、尿道カテーテルだという話が出ていました。でもそれがGさんの体の回復に向かわせるかというとそうではなく...午後になるとお医者さん2人がある程度の見通しを立てたようでした。そしてその2人からGさんに直接お話があり、私も同席させてもらいました。Gさん、寝ていることが多いですが、痴呆は全く入っていないんです。時間・場所の混乱もないし、自分の体の状態も把握できます。ベッドに横たわるGさんに、とてもゆっくり、そして静かに話しかける経験豊富な男性医師。2人の医師はちゃんと椅子に座って、携帯が鳴っても「今、患者さんと話しているから、かけ直す」と十分な時間をGさんに取っているようでした。男性医師はどこまでGさんが自分の体の状態を把握しているか、今の状態をGさんはどう思っているのかを訊ねた後、検査結果と医者の立場から可能である治療をGさんに伝えました。Gさんの心臓と体力の問題から癌の手術は選択肢にないこと、どんな薬を使ってももう治りはしないこと。

「Gさん、あなたは人生の最期の時を迎えようとしています。あなた自身が年を取ったように、体もそれだけ年を取ったんですよ。」

Gさんはふーっと一息ついて目を閉じていました。Gさん、旦那さんを5年前に亡くしており、子供はいません。双子のお姉さんがいるらしく、夕方に訪ねてくる予定になっていました。こういう時、家族が側にいないって大丈夫なのかな、寂しいとか怖いとか辛いとかそんな感情はないのかな。沈黙を破って、男性医師が話します。

「これからはGさんがなるべく心地よく過ごせるように、痛みや吐き気があるならそれを緩和する治療に専念することになります。なので私達は常にGさんに気分はどうかを訊くと思うけど、その時は正直に答えてください。我慢はしないで。」

30分はいたのではないでしょうか。Gさんがちょっと朦朧としてきたのを見計らって「たくさんの情報で疲れたでしょう。ちょっと休みましょうか」とお医者さんは部屋を出て行きました。そして看護師を交えて今後の薬の見直し。リンゲル液こそ残っているものの、心臓、肺塞栓症の薬などほとんどの薬が外されました。その後、Gさんの部屋に戻りベッドを調整しているとGさんがぽつりと言いました。

「とてもいいお医者さんだったねぇーでもいいお話ではなかったわぁ...私にとって」

冷たくて浮腫んだ手を握って、「何かあったらいつでもアラームを押してね。私達が見守るから」と言うと、しっかり手を握ったまま「ありがとう、ありがとう」とお礼。とは言ったものの、来週Gさんにまた会えるのかな。採血で失敗しても「悪いねぇ。大変だねぇ」と気遣ってくれるGさん。飲み込むこと自体大変なのに「OOとXXが食べたいなぁー」と言う。昨日来た甥っ子の奥さんがその一つを作って持ってきてくれると言ったけど、Gさんが最期に口にすることができるのかな?

シフト交代の時には眠ってしまっていて、声はかけなかったけど、Gさんが苦痛なく、穏やかに週末を過ごせることを願わずにはいれません。

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最期の告知” への4件のフィードバック

  1. こんにちは、はじめまして。
    ノルウェーの終末期医療について興味があり、コメントいたします。知人が日本で看護師として緩和病棟で働いていて、日本の延命治療の仕方に憤りを感じています。医師が、老衰を病気として捉えていること、治る見込みがなく、自分では何も食べられない老人をベッドに縛り付け、胃瘻や点滴でエネルギーを与え、発熱や床擦れに苦しみながらもズルズルと死を先延ばしにすることが多いこと。家族も、何が何でも先延ばしにしがちな事など。ノルウェーでは、どのようになっているんでしょうか?良かったら是非お聞きしたいです。突然すみません。

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    1. 田中様、コメントをありがとうございます。
      最近、日本でも尊厳死について語られることが多くなり、海外での【延命治療】について書かれた本もあると思いますが、日本で言う【延命治療】はほぼノルウェーには存在しません。
      治療して治る見込みのある老人には、一時的な胃瘻や点滴を施し、回復を手助けします。もちろん、手術も選択肢に入ります。しかし、治る見込みのない老人には無理な治療はしません。その人が穏やかに死を迎えられるよう手助けするのみです。私の経験から、終末期に入って(食べることをやめて)1週間以内に亡くなる方がほとんどです。ついつい「あっという間だったね」って呟いてしまうくらいです。

      老人ホームでも、終末期に入って病院に送り込んだりはしません。食べなくなれば、水分補給の手助けをするくらいです。家族が延命を望む話も聞いたことがありません。ただ静かに最期の時間を一緒に過ごしています(病室もそうですが、老人ホームも皆個室です)
      スウェーデンには寝たきり老人がいないという本がありますが(本当でしょうか?)、ノルウェーの老人ホームには寝たきりの方がちらほらいます。ただその老人達に共通しているのが、口から物を食べられるということです。誤嚥性肺炎予防のために胃瘻なんてことはしていません。もちろん、咽たりはしょっちゅうですが...飲んだり食べたりを拒否し始め、寝ていることが多くなると、そろそろかなとなります。

      乱雑な説明で申し訳ないですが、海外の終末期医療については日本でも本が出ていると思うのでぜひ参考にしてください。

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      1. お忙しい中大変丁寧な返事をありがとうございます。やはり、実体験をされている方から聞く話はとても興味深いです。以前、日本人医師の方が尊厳死や自身の活動について書いた本を読んだことがありますが、海外の看取りの違いについても本を探してみようと思います。福祉国家の北欧と、プライベート医療のアメリカなどを比べても違いがありそうですね。ますます興味が湧いて来ました。これからもブログ楽しみにしています。ありがとうございました。

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  2. こちらこそブログを読んでいただいて、そしてコメントをくださりありがとうございます。
    私自身、日本にいる祖母を【延命治療の末】亡くしたので、日本の終末期医療にとても疑問を抱いています。また延命治療を望む家族が多いことにも驚いています。生きている(元気な)うちに家族で最期をどのように迎えたいかを話すことはとても大事だと痛感しました。

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